鳥取地方裁判所 昭和54年(わ)37号 判決
本店所在地
倉吉市越殿町一四〇九番地
倉吉市農業協同組合
右代表者組合長理事
八田隆利
本籍
倉吉市上餘戸一五五番地
住居
同所
団体役員
八田隆利
大正九年六月二七日生
本籍
倉吉市耳五九四番地一
住居
同所
団体役員
竺原郁
大正一二年二月一五日生
右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官田頭良則出席のうえ審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人倉吉市農業協同組合を罰金六〇〇万円に、
被告人八田隆利を懲役六月に、
被告人竺原郁を懲役五月に、
それぞれ処する。
被告人八田隆利、同竺原郁に対し、この裁判確定の日から一年間それぞれの刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人倉吉市農業協同組合は、倉吉市越殿町一、四〇九番地に主たる事務所を置き、組合員の生産する物資の販売、その生活に必要な物質の供給、その生活に必要な資金の貸付等の事業を行う農業協同組合であり、被告人八田隆利は、同組合の組合長理事として同組合の業務全般を統括管理するもの、被告人竺原郁は、同組合の専務理事として組合長理事を補佐し職員を統括して同組合の業務遂行にあたるものであるが、被告人八田、同竺原は、同組合管理総合課長の森田登と共謀のうえ、右被告人倉吉市農業協同組合の業務に関し、法人税を免れる目的をもって、雑収入除外又はたな卸除外などの不正の方法により所得を秘匿したうえ、
第一、昭和五〇年二月一日から同五一年一月三一日までの事業年度における、同組合の実際の所得金額は別紙修正損益計算書(一)記載のとおり一一五、九五七、三八七円で、これに対する法人税額は別紙脱税額計算書(一)記載のとおり二一、六七四、五〇〇円であったにもかかわらず、同五一年三月三一日倉吉市上井五八七番地一所在の所轄倉吉税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は五三、八一〇、九九二円でこれに対する法人税額は七、三八〇、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって同組合の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額一四、二九三、八〇〇円の法人税を免れ、
第二、同五一年二月一日から同五二年一月三一日までの事業年度における、同組合の実際の所得金額は別紙修正損益計算書(二)記載のとおり一四九、四七九、一六五円で、これに対する法人税額は別紙脱税額計算書(二)記載のとおり二〇、三六八、五〇〇円であったにもかかわらず、同五二年三月三一日右倉吉税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は一〇三、二七三、二一二円で、これに対する法人税額は九、七四一、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって同組合の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額一〇、六二七、三〇〇円の法人税を免れ、
第三、同五二年二月一日から同五三年一月三一日までの事業年度における同組合の実際の所得金額は別紙修正損益計算書(三)記載のとおり一八八、〇四二、九七五円で、これに対する法人税額は別紙脱税額計算書(三)記載のとおり三九、七二四、九〇〇円であったにもかかわらず、同五三年三月三一日右倉吉税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額は一七二、五七九、九七五円で、これに対する法人税額は三六、一六八、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって同組合の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額三、五五六、五〇〇円の法人税を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一、被告人八田隆利の
1. 当公判廷における供述
2. 検察官に対する供述調書三通
一、被告人竺原郁の
1. 当公判廷における供述
2. 検察官に対する供述調書七通
一、証人森田登の当公判廷における供述
一、森田登の
1. 検察官に対する供述調書一一通
2. 大蔵事務官に対する質問てん末書
3. 検察官及び大蔵事務官(七通)に対する上申書
一、美田輝夫(二通)、安長忠敬(二通)、小原一幸、成増昭和、越水攸紀子、河原陽子、松本昭夫の検察官に対する供述調書
一、安長忠敬の大蔵事務官に対する上申書二通
一、石見郁代、河本誠友、市川耕、片山一郎、大場幸人の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、宍戸昭典、木原稔夫、小椋 の大蔵事務官に対する上申書
一、村山幸好の大蔵事務官に対する答申書
一、安長忠敬(五通)、市川耕、村山幸好、木原稔夫作成の証明書
一、大蔵事務官作成の調査事績報告書一三通
一、倉吉税務署長作成の青色申告の承認の取消通知書
一、押収してある特別積立金明細書綴一綴(昭和五四年押第一一号の二)、特別積立金調書綴一綴(同号の三、法人税決定決議書綴一綴(同号の四)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人組合が昭和五四年一月二九日倉吉税務署長から青色申告の承認を取消されたため、本件各事業年度の価格変動準備金の損金算入の処理が否認され、その結果生じる所得の増加分を課税対象とされたが、これを可罰対象とするのは、各確定申告時にこの増加分は存在しなかったものであり、かつ犯意もなく逋脱犯は成立しない旨主張する。
青色申告制度は、納税者の自律的納税制度であり、一切の取引を複式簿記の原則に従い整然かつ明瞭に記録し、これにより決算を行うべきことが要件とされ、正確な記帳と誠実な申告を期待し、これに適合した申告者に対し各種特別控除や損金算入など税法上の特典が認められている。従って被告人組合の判示のような方法で所得を過少に申告するほ脱行為は、青色申告制度を無視しその根底から揺るがす行為であるから、当然当該事業年度の確定申告をする際に青色申告の承認を前提とする税法上の特典を受ける余地がないものといわねばならない。そのうえ、ほ脱行為の結果として後に青色申告の承認の取消がなされるであろうことは、行為時において当然認識できることである。この点被告人八田。同竺原は、当公判廷において、青色申告の承認の取消のことまで考えていなかった旨の供述をしているが、被告人八田の昭和五四年二月二一日付検察官に対する供述調書によると、青色申告の特典は価格変動準備金の繰入が認められることなどで不正の申告があれば特典がなくなることも知っていた旨記載されている。それ故被告人八田は当然認識があり、被告人竺原にも同様に認識していたものと確認しうるので、確定申告時に犯意がないということは、到底認め難い。従って各事業年度にさかのぼって承認の取消があったときは、その事業年度のほ脱税額は青色申告の承認がないものとして計算した税額から申告した税額を差し引いた額とならざるをえないのである。なお、弁護人は、確定申告後に税務署長が決定する青色申告承認取消により犯罪の成否が決められるなど疑問である旨の論述をするが、ものの本質、実体をみず皮相的で形式的な見方であって、相当の理由があるものと認められず、いずれにしても弁護人の主張は採用することができない。
(法令の適用)
被告人組合につき
法人税法一五九条、一六四条一項、刑法四五条前段、四八条二項
被告人八田、同竺原につき
それぞれ法人税法一五九条、刑法六〇条(各懲役刑選択)、刑法四五条前後、四七条本文、一〇条(判示第一の罪の刑に加重)、同法二五条一項
(裁判官 藤本清)